更新日時:2020年7月30日
行政書士 佐久間毅
国際結婚の手続きも皆様それなりにご苦労されますが、配偶者ビザ(結婚ビザとも呼ばれますが、正式名称は在留資格「日本人の配偶者等」です。)の取得とその維持はもっと大変です。
国際結婚はあくまでも「結婚」なので、サウジアラビアやオマーンなどのように、外国人との結婚が原則として禁止されているような国籍のお相手と結婚するのでない限り、書類がきちんと集まれば、結婚できます。
つまり、国際結婚手続きは「書類あつめに始まり、書類あつめに終わる」のです。
しかしながら、配偶者ビザは、書類がすべて集まれば「受付」されますが、審査の結果、「許可されるかわからない」ところに怖さがあります。
国際結婚手続きは「届出制」ですが、配偶者ビザは「許可制」なので、行政手続きとしての難しさに天地の違いがあります。
すべての書類がそろった人の中で不許可と許可に分かれるのですから、カギになるのは申請内容の「信用度」となります。
偽装婚が多いので、この申請は信用できるのか信用できないのかを見抜くことがポイントとなり、配偶者ビザを取得するためには、入管職員に「納得」してもらうよう「説得」する必要があります。
9割以上の方が、最初は1年の配偶者ビザをもらいます。そして1年後に更新時期を迎えます。
更新の度ごとに、配偶者ビザの要件を満たしているかがチェックされ、その時点で満たしていないと判断されれば、配偶者ビザを取り上げられてしまいます。
つまり、取得のときだけ配偶者ビザの要件を満たしていればよいのではなく、最終的に永住権にたどり着くまでは、ずっと配偶者ビザの要件を満たし維持する必要があります。
したがって、配偶者ビザを初回に取得するときは十分な所得(収入)があったものの、その後、金額が減ってしまったとか無職になってしまったとかいう場合は、更新時に配偶者ビザが不許可になる可能性が出てきます。
配偶者ビザの有効期間は、6か月、1年、3年、5年があります。ほとんどの方は、はじめは1年から始まり、入管に信用されていくと、3年になり、5年になっていきます。
逆に最初は1年を取得しても、更新時に入管が1年も長すぎる!と判断した場合には、半年(6か月)に減らされてしまう場合もあります。
配偶者ビザが1年である内は、結婚から何年を経過していようと、永住権申請はすることができません。配偶者ビザには3年、5年が用意されているので、1年からいきなり「永年」はトライできないのです。
まずは3年か5年の配偶者ビザをゲットしないと、永住権にチャレンジする最低限の要件を満たしません。
配偶者ビザが許可されると、在留カードをもらうことができます。在留カードには期限が記載されていますから、夫婦で期限管理に気を付ける必要があります。
年が改まって新年のカレンダーや手帳を購入したら、真っ先にお相手の外国人の在留期限と配偶者ビザ申請の更新予定日を記入するくらいの慎重さがあって丁度良いです。
有効期限を1日でも徒過するとそれは「オーバーステイ(不法残留)」ですから、今後の永住申請などの際に不利な要素となります。
ご自身の結婚が真実の結婚であれば配偶者ビザを維持することは当然と思いがちで油断しがちです。当然の権利と思わず、有効期限には十分ご注意ください。期限が切れたその日から、不法滞在者となるのですから。
配偶者ビザの保有者は、どんな仕事をしても構いませんし、永住権に到達できる可能性も就労ビザのかたより高いなど、恵まれた側面があります。
しかしながら、配偶者ビザの所持者といえども「外国人」であることには変わりませんので、「退去強制事由」にあたる行為をすれば国外追放(退去強制)となります。
この退去強制事由は、ビザのカテゴリーごとに違いは設けられていません。したがって、就労ビザの外国人が退去強制になるようなことを、配偶者ビザの所持者がやってしまえば、そのかたもやはり退去強制となりますのでご注意ください。
配偶者ビザの保有者である外国人は、原則として日本人の配偶者と「同居」する必要があります。
あまり知られていませんが日本の民法には夫婦の同居義務が定められています。
民法 第752条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
この夫婦の同居義務を定めた民法752条は、日本人同士の結婚でも、たとえば単身赴任など夫婦の仲がよいあいだは問題とならないのですが、離婚などが現実化する局面では、にわかにクローズアップされます。いわゆる離婚問題を専門とする離婚弁護士さんは、実務で良く使う条文です。
また日本に限らずアメリカには、別居と離婚とのあいだに「法で認められた別居」という慣習法上の概念があるくらいで、別居は決してノーマルな夫婦の形として認識されていません。
したがって、配偶者ビザで日本に滞在中は、よほどのことがない限りは、夫婦で同居して暮らしてください。よほどの事情がある場合は別居せざるを得ないでしょうが、配偶者ビザの更新が許可されるかは微妙です。
逆に、きちんと夫婦で同居しているにもかかわらず、日本人が新居に住民登録を移さず、実家に残したままにされているかたがいらっしゃいますが論外です。夫婦が同じ住所に住民登録していないのであれば、書類上は「別居」していることになってしまうのですから、必ず実態に合わせましょう。
配偶者ビザで日本に暮らす外国人の方がおざなりにしがちなもうひとつのポイントが「転居」に伴う住民登録の移動です。
日本人は転居しても転出届と転入届を市区町村役場に出さずに、たとえば実家などに残しておく方がいらっしゃいますよね?
実は日本人にも転居したら住民票を移さなければならない法律上の義務はあるのですが、ペナルティが行政罰で罰金のみなんです。
だからたとえそのことが問題になったとしても、罰金を払うだけで行政罰なので前科にもなりません。
しかし外国人の場合は、転居したのに転出届や転入届をださずに放置していると、最悪「退去強制」となりますし、入管法上のペナルティがありますのでご注意ください。
転居に伴う届出は、日本人よりも外国人の方が、はるかに重要なものとして法律上規定されています。
配偶者ビザをはじめてもらった方は、いずれその期間が3年、5年となり、最終的には更新の必要なくずっと日本に暮らすことができる永住権に到達することを夢見ますよね?
その際に重要なことは、配偶者ビザの更新時には、永住許可申請の要件を「逆算」して申請をする視点です。
配偶者ビザの更新を繰り返して、さて、永住権を申請しようと思ってその要件を確認した時に、配偶者ビザの更新の要件はクリアしていたが、永住権の要件はクリアしていなかった場合、途方に暮れてしまいます。
当然のことながら、配偶者ビザの更新の条件よりも、永住権が許可される条件の方が厳しいのですから、配偶者ビザの更新の要件をクリアすることにだけ意識が行っていると、永住権申請の時に困ってしまうでしょう。
配偶者ビザの更新をビザのプロに頼むと、永住権の要件を逆算していろいろなアドバイスをくれるでしょう。こういうところも、ビザのプロを使う大きな利点と言えます。
行政書士 佐久間毅(さくま・たけし)
東京都出身。慶應義塾志木高等学校、慶應義塾大学法学部卒。高校在学中に米国コロラド州のイートンでホームステイ。大学在学中は、他大学である上智大学の国際法の権威、故・山本草二教授の授業に通い詰める。大学卒業後は民間の金融機関で8年間を過ごし、現在は東京・六本木でビザ専門のアルファサポート・行政書士事務所を開業。専門は入管法、国籍法。