更新:2020年7月6日
行政書士 佐久間毅
外国人雇用をお手伝いしていると、就労に制限のない外国人の方はコンプライアンスの観点から安心して雇用することができるとつくづく実感します。
在留資格の範囲内の仕事なのかと気をもむこともありませんし、留学生をアルバイト採用するときのような労働時間の管理も必要ありません。
この記事でご紹介するいわゆる「身分系」の在留資格をお持ちの方は「活動に制限がない」ので、職種や時間に制限なく働くことができます。もちろん日本人同様に労働法は守らなければなりませんが、外国人特有の注意事項が大変少なくて済みます。
ただし厚生労働省への「外国人雇用状況の届出」は、これら身分系の在留資格の外国人を雇用した場合についても必要です。
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いっぽうで就労に制限のある在留資格の外国人の方は、働くご本人も雇用側も在留資格該当性や労働時間などによくよく気を付けませんと違法となり、働く外国人のかたは「資格外活動罪」に、雇用側は「不法就労助長罪」という犯罪に問われることとなります。
不法就労をした外国人本人が罪に問われるのはイメージがつくと思いますが、採用した雇用主も不法就労を「助長した」罪を問われてしまうのです。
その意味で、日本で自由に就労することができる外国人の方は貴重な存在と言えるでしょう。
就労に制限がなく、職種も時間も自由に(もちろん日本人同様、労働法が許す範囲内ですが)働くことができる在留資格は、
入管法の別表二に列挙された4つの在留資格、すなわち、永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者です。
日本はいわゆる移民を認めていない国といわれます。移民の定義によるので、あまり意味のある議論ではないのですが、
そのひとつの根拠として指摘されるのが、いきなり永住者になることはできないとされている点です。
すなわち、これまで日本に居住した経験のない外国人の方が、いきなり「永住者」として日本にやってくることはありません。
日本の永住者になるルートはいくつかあるのですが、いずれにせよ、日本にある程度居住している人にしか永住者への道は開かれません。
また近年は永住申請の際に求められる必要書類が以前にもまして増加し、特に社会保険の支払い状況が厳しくチェックされるようになっています。
時折、混同されている方がいらっしゃいますが、生まれたときから日本で暮らしている在日韓国人の方などのいわゆる「特別永住者」とは扱いが異なります。
入管法上の「永住者」は、ひとつの在留資格に過ぎませんので、退去強制事由にひっかかれば退去強制となりますし、在留資格取り消し事由に該当すれば永住者の在留資格は失われます。
特に、再入国許可との絡みで永住者としての在留資格を失う人も多いので、永住者になっても油断はできません。
重い犯罪を犯すなどすれば当然に永住者の資格を失います。
永住者は、在留期間に制限がないため、他の在留資格のように在留期限を意識しながら生活をする必要がなく、住宅ローンも組みやすくなります。
在留期間が3年しかない外国人の方は、なかなか20年の住宅ローンは組めませんので、住宅ローンのために永住資格を望む外国人の方も多くいらっしゃいます。在留期間が3年のかたに住宅ローンを組ませてくれる銀行も一部存在するのですが、金利が有利でないのです。
また、アメリカの市民権との混同から、在留資格「永住者」と日本国籍の取得との区別がついていないかたがいらっしゃいますが、在留資格「永住者」となっても外国人であることに変わりはなく、日本人になるわけではありません。それゆえに、退去強制もありえますし、在留資格が取り消されることもあるのです。
永住者の方は在留期限に制限がなく、その意味において「永住」なのですが、活動にも制限がないので、職種や労働時間を気にすることなく、自由に仕事に就くことができます。
日本人の配偶者等、つまり、日本人の配偶者、日本人の実子、日本人の特別養子に与えられる在留資格です。
「等」に日本人の実子と特別養子が含まれています。
日本人の子として生まれていればよく、日本の地で出生している必要はありません。
日本人の実子や特別養子は大人が意図してなれるものではありませんが、配偶者になることは両者の合意のみでなれますので、職種、時間に制限なく働くことのできる恵まれた地位を狙って偽装結婚が多発しているため、配偶者ビザの審査が厳しくなる要因のひとつとなっています。
日本人の配偶者は戸籍謄本に載る法律上の結婚である必要があり、事実婚や外国の法律に基づく同性婚では取得することができません。
まだ法律上の婚姻が成立していない婚約者も取得することはできません。
この在留資格は永住者と異なり1年、3年、5年などの在留期限がありますが、活動に制限はないため、自由に就労することができます。
永住者または特別永住者の配偶者、永住者または特別永住者の子として日本で出生しその後引き続き日本に在留する者に与えられる在留資格です。
永住者の特別養子には与えられませんし、永住者の実子であっても日本の地で生まれている必要がある点などで、日本人の配偶者等とは異なります。
永住者のかたが里帰り出産として母国に一時帰国し外国で出産することもしばしばみられますが、その場合は外国の地で生まれているので、その子にこの在留資格は与えられませんので注意しましょう。
配偶者は法律上の結婚である必要があり、事実婚や外国の法律に基づく同性婚では取得することができません。
しかしながら結婚当事者双方の母国において同性婚が法的に成立している場合には、「特定活動」の在留資格が認められる可能性があります。
この在留資格には在留期限がありますが、活動に制限はないため、自由に就労することができます。
永住者と定住者は日常用語としては同じようなイメージですが、両者はまったく違う概念であり、在留資格「定住者」には在留期限があります。
定住者には様々な類型があるのですが、典型例は「日本人の子として出生した者でかつて日本国民として本邦に本籍を有したことがあるものの実子の実子」です。わかりにくい表現ですが、要は、日系3世です(定住者告示4号)。
「日本人の子として出生した者でかつて日本国民として本邦に本籍を有したことがあるもの」が日系1世ですので、その実子の実子ですから3世となります。
この在留資格には在留期限がありますが、活動に制限はないため、自由に就労することができます。
人手不足の業界で多くの日系人が働いていらっしゃることをご存知かと思いますが、多くはこの定住者ビザで来日し働いています。
活動に制限がありませんので、自動車工場などでも就労することができるのです。
行政書士 佐久間毅(さくま・たけし)
東京都出身。慶應義塾志木高等学校、慶應義塾大学法学部卒。高校在学中に米国コロラド州のイートンでホームステイ。大学在学中は、他大学である上智大学の国際法の権威、故・山本草二教授の授業に通い詰める。大学卒業後は民間の金融機関で8年間を過ごし、現在は東京・六本木でビザ専門のアルファサポート・行政書士事務所を開業。専門は入管法、国籍法。