更新:2021年2月23日
行政書士 佐久間毅
もくじ
1. 概要
4. 永住権の7つの条件
5. 永住権の条件1:現に有している在留資格について、最長の在留期間をもって在留していること
6. 永住権の条件2:実体を伴った婚姻生活が3年以上継続し,かつ,引き続き1年以上日本に在留していること
9. 永住権の条件5:公的年金及び公的医療保険の保険料の納付を適正に履行していること
10. 永住権の条件6:入管法に定める各種の届出等の義務を適正に履行していること
11. 永住権の条件7:公衆衛生上の観点から有害となるおそれがないこと
>> 日本人の配偶者は、他の外国人が10年かかる永住権申請を、結婚から3年ですることができます(他にも要件あり)。
>> 令和元年5月に永住権の要件が見直されたことで難化し、これまでの潮目が完全に変わりました。
具体的には、過去に税、年金、健康保険の支払いが納期限に遅れたことがある方の永住権取得が、たとえ永住権申請時には完納されていたとしても、難しくなりました。
>>法務省の統計によれば、2019年(令和元年)の永住許可率は、56.6%です。2020年の統計は2021年の7月に公表されます。
日本人の配偶者である方は、他の在留資格の方が日本に引き続いて10年在住しなければならないところ、それが大幅に短縮されているなど、永住権が他のビザの外国人にくらべて取得しやすい状況がつづいてきました。
しかしながら令和元年5月に永住許可の要件が厳格化する方向で見直しになり、完全に潮目が変わった印象があります。
令和元年に何があったのかというと、この年4月から特定技能ビザという新しい在留資格が生まれ、単純労働者が数十万人単位で日本にやってこられるようになりました。
この法改正の際、日本が移民国家になって大変なことになるなど反対の声があがったこともあり、永住許可の要件を見直して、外国籍の方々が簡単には日本の永住者になれないように要件を厳しくする方向で改定されたためハードルが上がってしまったのです。
この永住許可の要件の見直しに伴って、日本人配偶者のかたも、永住申請の際に提出しなければならない必要書類の数が大幅に増えました。それが社会保険料(年金・健康保険料)を納期限までに支払ったことを証明する書面なのです。
簡単に言うと、来日から現在にいたるまでの税金、年金、健康保険の支払いが、過去に一度でも納期限に遅れたことがあると、非常に不利になります。
2019年以前は、年金や税金、健康保険を過去に滞納した実績があっても、永住申請時までに完納していれば特にお咎めなく永住権が許可されていました。そもそも永住許可申請において、年金や健康保険の支払い状況に関する書面を提出する必要さえなかったのです。
しかしながら、過去の滞納を永住申請時にはきれいにするものの、永住が許可された途端にふたたび滞納を開始されるかたが後を絶たなかったため、これまでに納期限に遅れて税や年金や健康保険を支払った過去がある方の永住が許可されなくなりつつあります。
なぜなら、永住申請時には完納したとてしても、納期限をすぎてから完納するまでのあいだは違法行為をつづけていたのであり、この過去の違法行為が問題となるわけです。永住が許可されるためには「日本の国益に合致する」人物であることが必要があり、違法行為の実績がある人に永住を許可することは、日本の国益に合致しないという論理です。
海外から配偶者ビザで来日して、直ちに会社員である日本人の扶養に入れる手続きをとり、その後も扶養から外れたことがないかたは、さしてご心配はいらないでしょう。税も社会保険も給与天引きで自動的に支払われているからです。
しかしながら、今は会社員であっても過去に留学生だったかたが学生の時分に社会保険の滞納をしていたり、海外から配偶者ビザで招へいしたものの扶養に入れる手続きをしばらく怠っていたり、ご自身でビジネスをされていて、税や社会保険の計算と支払いを自己流にされているような方は、最近かなり厳しい状況です。
最もシンプルな永住申請となるのは、「会社員」の日本人の扶養に、来日後「直ちに」入る手続きを完了させた、「完全無職」の外国人のかたになります。
それ以外のかたは申請準備が以前に比べると格段にたいへんになっており、皆様ご苦労されています。
ご参考までに2015年までは永住許可率は法務省の統計で70%を超えていましたが、2016年に60%代に下がり、2017年以降は50%代がつづいており、年により若干の上下がありますが全体として減少傾向にあります。
最新の統計では、2019年の永住許可率は56.6%でした。
日本人の配偶者でありながら、在留資格「日本人の配偶者等」ではなく、就労ビザ(在留資格「経営管理」、在留資格「技術・人文知識・国際業務」など)をお持ちの方がいらっしゃると思います。
これらの方も、原則として以下の条件で永住許可申請をすることができますが、入管は外国人と結婚した日本人のことを基本的に何も知らない状況(就労ビザの申請時に同居者として氏名、生年月日、勤務先を把握している程度です。)ですので、永住ビザ申請の際に、同時に配偶者ビザの要件を満たしていることの立証が求められるなど、手間は同じではありません。
また、無いとは思いますが、就労ビザの申請時に同居者として配偶者の名前を記載しなかった場合には、当然のことながら問題が生じます。就労ビザの更新申請時の記入に虚偽があったか、そもそも同居していないのかどちらかだからです。
万が一、永住許可申請が不許可になってしまった場合で、その不許可理由が配偶者ビザの要件にも関連している場合(たとえば「実体のある婚姻」と認められないことが明らかになった場合など)には、配偶者ビザが取消しとなったり、次回の更新許可申請時に在留期限が6か月に減らされたりするなどしますので、永住申請は基本的に「無期限の資格」を得るための「攻め」の申請ではありますが、「防御」にも意識を払うようにしましょう。
永住権申請には次の7つの条件がありますが、当然のことながら、配偶者ビザの要件は維持している必要があります。
したがって下記ではあらためて記載しませんが、配偶者ビザを維持することができるだけの「収入」などは必要です。
かんたんにこの条件の趣旨をご説明すると、1年の配偶者ビザから、3年を飛び越えて、一足飛びに「無期限」の永住者にはなれませんよということです。それはそうだよねとご納得いただけるでしょう。
「最長」とされていますが、当面は「3年」の在留期間の方も最長であると「みなされ」ますので、申請が可能です。
配偶者ビザの在留期間は、6か月、1年、3年、5年ですので、3年と5年の方が申請することができます。
在留期間が1年のかたは、まずは3年分の信頼を勝ち取りましょう。
「婚姻生活が3年以上継続し」とは、基本的には「法的な結婚が成立してから3年」という意味に理解してよいですが、その前に「実体を伴った」という言葉がついています。
例えば法律上の結婚日から3年を経過しているが、当初1年はお互いの仕事の都合によりそれぞれの母国で暮らし、結婚2年目から結婚生活をはじめたとします。
そうすると、実体のある(同居した)結婚生活はまだ2年しか経っていませんので、たとえ結婚日から3年が経過していたとしても要件を満たさないことになります。
実体を伴った結婚生活はすべてを日本で送る必要はなく、海外で2年の結婚生活を送ったのちに日本に移住し、日本でさらに1年の結婚生活を送った場合には要件を満たします。
「引き続き」1年とありますので、細切れの1年を合計して1年では足りません。
要件のうち「結婚生活3年以上の継続」と「引きつづき1年以上の日本在住」の部分は、容易に立証することができます。
しかし「実体を伴った」結婚生活であることも立証しなければなりませんので、この点に注意を要します。
たとえ結婚生活が3年以上で引き続き1年以上日本で暮らしていても、「実体があること」を立証しなければ不許可になるからです。
罰金刑という比較的軽微な刑罰であっても、犯罪歴があると永住権の要件を満たしません。
窃盗罪や公務執行妨害罪のほか道路交通法違反などありがちですのでご注意ください。
納税の義務は、適正に履行していることが必要です。配偶者ビザの更新の際は地方税(住民税)のみをチェックされましたが、永住権申請の際は、国税(所得税)もチェックされます。
また「適正に」とありますので、「適時に」支払っている必要があります。「適時」とは、納期限までに滞納することなくという意味です。
かつては見逃されていましたが、さんざん滞納した挙句、永住申請の直前に滞納した分を納税して滞納をキレイにするといったことをしても不許可となります。このような行為をされる方は、永住が許可されたら再び滞納をはじめるであろうと入管は考えているからです。
いわゆる年金と、健康保険料は適正に納付していなければなりません。
「適正に」とありますので、「適時に」支払っている必要があります。「適時」とは、納期限までに遅れることなくという意味です。
かつては見逃されていましたが、さんざん滞納した挙句、永住申請の直前に滞納した分を納税して滞納をキレイにするといったことをしても、それは「適正に」納めていることにはならないので不許可となります。このような行為をされる方は、永住が許可されたら再び滞納をはじめるであろうと入管は考えているからです。
これら社会保険の納付状況は永住許可要件の見直しで強化された審査ポイントです。
永住許可申請の必要書類として「年金定期便」や「ねんきんネットの写し」などを提出する必要があるので、過去の納付状況はたちどころに把握されます。ちなみに、従前は「年金定期便」などは必要書類ではありませんでした。
入管法に定める各種の届出義務とは、たとえば住所変更の届出などです。
日本人の場合は引っ越ししたにもかかわらず住民票をもとの住所に残していてもシビアな問題に発展することは少ないですが(といってもあまりに長く放置していると、住民登録を抹消されますのでご注意ください。よくホームレスの方々が生活保護の受給資格との関係で「住民票がない」ということをおっしゃっておられますが、あれは、住民登録を抹消されてしまっている状態です。)、
外国人の方が引っ越しをしたのに住民異動届を出さずに放置していると、入管法上の義務に違反するだけでなく、最終的には退去強制事由や在留資格取消事由に発展する大ごとになります。
入管法上の届出義務が判明しても、多くの場合更新申請が不許可になることはありませんが、最長の在留期間は与えないルールになっています。よって、もはや上述の条件1を実質的に満たせなくなりますので、永住許可が許可されることはありません。
感染症にかかっている方(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律6条に定める者)のほか、麻薬、大麻、あへん及び覚せい剤等の慢性中毒者も、公衆衛生上の観点から有害である者として扱われます。
なお指定感染症の罹患者は「公衆衛生上の観点から有害である者」として扱われますが、新型コロナウイルスは令和2年1月に公布された政令により指定感染症に指定されています。
例えば海外から帰国した時に空港のPCR検査に引っかかった(陽性となった)場合などは、回復するまで申請を待ちましょう。
行政書士 佐久間毅(さくま・たけし)
東京都出身。慶應義塾志木高等学校、慶應義塾大学法学部卒。高校在学中に米国コロラド州のイートンでホームステイ。大学在学中は、他大学である上智大学の国際法の権威、故・山本草二教授の授業に通い詰める。大学卒業後は民間の金融機関で8年間を過ごし、現在は東京・六本木でビザ専門のアルファサポート・行政書士事務所を開業。専門は入管法、国籍法。